【ご相談】
離婚した妻から財産分与として私名義の資産の半分を請求されました。これは法律上支払わないといけないものなのでしょうか。
【回答】
●婚姻中に夫婦で協力して形成した財産といえるものは、支払わなければなりません(清算的財産分与といいます)。
●財産分与の額は協議によって決めます。協議ができなければ調停・審判によって決めることになります。
●離婚後の相手方の生計を維持する意味として財産分与が必要になることもあります(扶養的財産分与といいます)。
●有責配偶者に対する慰謝料請求を含めて財産分与を求められることもあります(慰謝料財産分与といいます)。
以下、弁護士が詳しく解説します。
1 根拠規定と財産分与の意義・性質
⑴ 根拠規定は民法768条1項、同771条
財産分与とは、離婚した場合に、夫婦の一方が他方に対して、婚姻中に形成した財産の分与を求めることです。
民法768条1項により、財産分与請求権が認められています。
財産分与につき、当事者間で話し合いができなければ、当事者は、「家庭裁判所に対して協議に代わる処分」を求めることができます(同768条2項)。
(財産分与)
第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
(協議上の離婚の規定の準用)
第771条 第766条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
⑵ 財産分与請求権は抽象的権利かつ一身専属的な権利
ア 取り決めがないと意味のない抽象的な権利である
財産分与請求権は、夫婦間の協議、調停ないし審判によって具体的な金額が決定されて初めて具体的な請求権となります。※
※裁判例の考え方です。
学説では、形成権説、実体権説などの諸説があります。
形成権説とは、財産分与請求権は、その発生、額、内容、分与方法など全てが協議等の取り決めによって初めて形成されるとする説です。
実体権説とは、財産分与請求権は、離婚という事実やその性格(清算・扶養など)を決める事実の存在さえあれば当然に発生するとする説です。
裁判例はこれらの説の折衷説で、段階的形成権説などと呼ばれます。
イ 財産分与請求権を行使するかどうか決めるのは一身専属的なものである
前記アのとおり、財産分与請求権は夫婦間の協議、調停ないし審判によって具体的な金額が決定されて初めて具体的な請求権となります。
具体的な金額が決定される前の抽象的請求権の段階では、当事者しか行使できない一身専属的なものです。
一身専属的であることから、次のような法的効果が導かれます。
財産分与の具体的な内容が決まるまでは、
・他人に財産分与請求権を譲渡することができない
・差し押さえの対象とならない
・破産手続における破産財団に組み入れられない
2 財産分与の3つの要素
⑴ 財産分与の清算的要素
財産分与では、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を分けることになります。
夫婦が婚姻中に形成した財産とは、どちらの名義であっても、それが「婚姻中に協力して形成した財産」であれば含まれます。
このことは、財産分与の清算的要素といわれます。
財産分与の中核ともいえる要素です。
⑵ 財産分与の扶養的要素
また、財産分与は、「婚姻中に協力して形成した財産」を清算するだけでなく、離婚後における他方配偶者の生計の維持を目的とする意味もあります。
このことは、財産分与の扶養的要素といわれます。
不要的要素を考慮するかどうかは各家庭によります。
⑶ 財産分与の慰謝料的要素
さらに、財産分与は、有責配偶者に対する慰謝料請求としての意味をもつこともあります。
このことは、財産分与の慰謝料的要素といわれます。
ただし、慰謝料請求は、本来民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権として行使することが可能な権利です。
そのため、財産分与と切り離して別個に慰謝料請求することが可能なため、必ずしも財産分与に慰謝料的要素を加味する必要はありません。
よって、この意味を付加するかどうかは当事者の選択に委ねらえるといえます。
参考最高裁判例 最判昭和46年7月23日 「離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであって、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によって離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがって、すでに財産分与がなされたからといって、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。」
3 有責配偶者に対しても財産分与を支払う義務がある
財産分与請求者が有責配偶者であっても、財産分与義務がなくなるわけではありません。
この点は婚姻費用と異なる点です。
「財産分与は法律上の義務です。精算割合については別途解説します。」